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最高裁判所第三小法廷 平成6年(行ツ)7号 判決

上告人

増井健治

右訴訟代理人弁護士

加地和

西村立至

被上告人

大阪国税局長

若林勝三

右指定代理人

村川広視

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人加地和、同西村立至の上告理由について

論旨は、要するに、国税通則法七〇条は第二次納税義務の納付告知についても類推適用すべきものであるというにある。しかしながら、以下に述べる理由により、所論は採用することができない。

国税徴収法の定める第二次納税義務は、確定した主たる納税義務につき本来の納税義務者の財産に対する滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別な関係にある第三者を本来の納税義務者に準ずる者とみて、これに主たる納税義務についての履行責任を補充的に負わせるものにほかならず、この意味において、第二次納税義務の納付告知は、確定した主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有するものというべきである(最高裁昭和四八年(行ツ)第一一二号同五〇年八月二七日第二小法廷判決・民集二九巻七号一二二六頁参照)。このように、右納付告知により具体的に発生する第二次納税義務は、既に確定している主たる納税義務者の納税義務を補完するものにすぎず、これと別個独立に発生するものではない。そして、右義務は、主たる納税義務が発生し存続する限り、必要に応じいつでも課せられる可能性を有するものであって、右納付告知は、ただその義務の発生を知らしめる徴収のための処分にほかならない。国税通則法七〇条が、国税の更正、決定等の期間制限について規定していながら、第二次納税義務の納付告知については触れるところがないのは、右に述べた第二次納税義務の納付告知の性格等からして、右納付告知については独立して期間制限を設ける理由がないことによるものと解されるのであり、そうである以上、同条が第二次納税義務の納付告知に類推適用されることはないといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法があるとはいえない。所論違憲の主張は、第二次納税義務の納付告知にも国税通則法七〇条の期間制限の規定が適用ないし類推適用されることを前提とするものであるが、右前提が誤りであることは右に述べたとおりである。論旨はすべて採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官千種秀夫 裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官尾崎行信)

上告代理人加地和、同西村立至の上告理由

(一)原判決には、左の通り判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背があるので、破毀を免れない。

一、主たる納税義務者と、第二次納税義務者とは、納税の主体を異にした別個独立の納税義務者である。

国税徴収法第三二条第一項は、「税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、……徴収しようとする金額・納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない」と定めてある。

二、租税実体法の定めている租税債権債務関係の中には、抽象的租税債権債務関係と、具体的租税債権債務関係との区別を認めなければならない。前者は、租税実体法の定める課税要件を充足することによって成立し、租税債権者たる国、又は地方公共団体が相手方たる人民に対し、これを取得することになるけれども、その租税債権は未だ抽象的、潜在的に成立しているだけで、さらにその内容を具体的に確定するための特別の手続を経て、はじめて現実具体的な租税の給付請求権としての租税債権となるものをいう。法人税は、事業年度の終了の時に、その納税義務が成立することになっている(国税通則法第十五条第二項)が、この場合にも、国の租税債権は、単に抽象的に成立するだけで、未だその具体的内容は定まっておらず、さらに法律の定める特別の手続により、納付すべき税額が確定されてはじめて、具体的租税債権が成立することとなる。

本件の上告人の第二次納税義務の範囲は、国税徴収法で、主たる債務者について、①、「滞納処分を執行しても」なお②「徴収すべき額に不足すると認められるとき」という要件によって定まるから、印紙税その他納税義務の成立の際、印紙をはることにより納付すべきものとされている国税のように、課税行為をしなくても、明白に具体的租税債権が定まってくるものではない。

本件の上告人の第二次納税義務は、納付通知書によって告知されてはじめて、具体的租税債権が発生するのである。

三、別個独立の納税義務者である第二次納税義務についても、除斥期間は、当然存在すべきであり、国税通則法七〇条の規定が、第二次納税義務者に対する課税処分について明白でないとするならば、同条文を類推適用すべきである。

なぜならば、憲法第三〇条・第八四条に定める租税法律主義は、第二次納税義務者の除斥期間についての立法の不備を、他の納税義務者よりも第二次納税義務者を逆に不利に扱うことを許す趣旨ではないからである。

四、よって、本件においては、第二次納税義務者である上告人に対し、納付通知書にによる告知が可能であった昭和五七年九月二日から、おそくとも七年を経過した日をもって、上告人に対する第二次納税義務についての賦課権は除斥期間によって消滅したのである。

(二)原判決は、左の通り、憲法に違背しており、破毀を免れない。

憲法第八四条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定めている。

第二次納税義務者に対する除斥期間の始期についても、法律で定めるべきであるにもかかわらず定めていない。現行の国税通則法は、憲法に違背するものである。

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